ニューヨークのオールドアパートメントというとウエストサイドのマリアとトニーが裏階段でお互いに手を差し伸べて唄っているシーンが頭をよぎる。あれも移民の多い街での出来事。こちらは、まさに不法移民ではあるが、ペルーから希望を持ってニューヨークにやっとの思いでやって来た母と二人の息子の物語。
母親ラファエル(マガリ・ソリエル)は、ウエイトレスの仕事をしながら2人の息子ををで育てている。年頃の息子ティト(マルチェロ・デュラン)とポール(アドリアーノ・デュラン)の母親は二人にとって”美しい女性” 「母親でなけれは、恋をしいる」と語りあうほど。
そんな彼らは、母親の手伝いをして配達員などをしいてるが、自分たちは「透明人間だ」と憂いて、目立たなく人からわからないように暮らしていた。が、謎めいた美女クリスティンと出会い写真をもらう。それをきっかけに二人は憧れるように彼女に接し淡い恋を抱く。そしてある日、彼らは消えてしまう。
一方、母ラファエルは、客の男性に声をかけられ、良い関係になっていく。その男とキッチンフードを開業することになるが、もちろん二人の息子はその男が気に食わず、手伝いもほっぽらかしていた。しかも、仕事は思ったほどスムーズにはいかない。そして、息子たちが消えてしまい、部屋がめちゃくちゃになっているところが実は、映画のスタートのシーンに繋がる。息子たちと母親はどうなるのか。
現実の厳しさと、ささやかな夢と希望、そして生きるたくましさが描かれている。
息子役の二人は、オーディションで選ばれたペルー出身の双子アドリアーノとマルチェロ・デュラン兄弟。息が合ってるのは当たり前。
母親役ラファエラは、「悲しみのミルク」(2009)のマガリ・ソリエル。今作で2021年チューリッヒ映画祭最優秀女優賞、同じく2021年ブルガリアのラブ・イズ・フォリー国際映画祭最優秀女優賞を受賞。恋する母親と働く女性のたくましさを美しく演じている。
監督は、短編「ボン・ボャージュ」が第89回アカデミー賞短編映画賞にノミネートされ、今作が長編デビューになるマーク・ウィルキンス監督が、オランダの作家アーノン・グランバーグが1998年に書いた小説「De heilige Antonio」を原作にメガフォンをとった。2021年オーストリア・チロルのキッツビュール映画祭最優秀監督賞をはじめ、欧米の映画祭でいくつもノミネート。
母親を「美しい女性」と言える息子たちって心の瞳が澄んでいるんだろうなぁ。
ニューヨーク・オールド・アパートメント 原題 The Saint Of Impossible
1月12日(金)より 新宿シネマカリテほか全国公開
2020年/スイス/英語、スペイン語/97分/シネスコ/5.1ch//配給・宣伝:百道浜ピクチャーズ
© 2020 – Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue PG-12