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ハロルド・フライのまさかの旅立ち

レイチェル・ジョイスのベスト・セラー小説「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」をヘディ・マクドナルド監督が映画化。主演は「アイリス」(01)でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞に輝いたジム・ブロードベント。イギリスらしい大人が楽しめる人間味あふれる作品だ。

 掃除機が映し出されるオープニング。家をせっせと掃除している妻モーリーン(ペネロープ・ウィルソン)と定年退職した夫ハロルド(ジム・ブロードベント)はお互いに無関心。そんなある日、ハロルドのかつての同僚から一通の手紙が届く。
ハロルドは返事を書こうとモーリーンに相談するが、さらりと交わされてしまう。やっと返事を書いてポストに出しに行くがなかなかその手紙をポストに入れることが出来ず、とうとう、会いに行こうと一歩踏み出すことから、このストーリーは動き始める。
 なにしろ、ふらりと出かけた格好のまま。イギリスの南に位置するデヴォン州のキングスブリッジからロンドンを経由して北のノーサンバーランド州のかなりスコットランド寄りのベリック・アポン・ツイードまでの800キロの旅。果たして、何日かかるのか、たどり着けるのか、日々の生活はどうするのか、徒歩で全部行けるのか、たくさんの疑問を抱えながらこの作品を見ることになる。が、なるほど、長い道のりの中、ちょっとした後押しがあったり、出会いがあったり、共鳴する人が出できたり、さすが現代と思わせるシーンがあったりと唸らせてくれる。
会いに行くことも大事だが夫が突然、途方もないことに挑戦することで、妻も夫への思いに気がつくなど、それぞれが人生に向き合う大切さが伝わってくる。

 今年75歳になるベテランのジム・ブロードベントや、「ダウントン・アビー」でもお馴染みのジムより3つ年上のペネロープ・ウィルソン、ハロルドが会いに行くクイーニーを演じる「カレンダー・ガールズ」「キンキー・ブーツ」に出演していたリンダ・バセットなどシニア組の味のある演技は、特に激しくすごいシーンがあるわけではないが、なぜか人の悲しみ、苦しみ、優しさが心に響く。

イギリス縦断の景色も含め、イギリスをたっぷり味わえる! 

監督 ヘティ・マクドナルド
出演 ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルソン、アール・ケイヴ、リンダ・バセット、ジョセフ・マイデル

原題 The unlikely pilgrimage of Harold Fry
ハロルド・フライのまさかの旅立ち
2022年/イギリス 108分

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

全国公開中