映画史上最も多く登場した歴史上の人物ナポレオン。ギネスブックによると何と177回。
それだけ、歴史的な意義も人物としての存在感も大きかったことがわかる。
舞台はフランス革命勃発後の1793年。庶民たちからゴミなどを投げつけられながら処刑台に向かう王妃マリー・アントワネットの姿からスタート。斬首刑を群衆に混じりナポレオンが見ている。
フランス革命で混乱が続く中、天才的な軍事戦略で諸外国から国を守り、庶民から皇帝にまで上り詰め最高権力を英雄として手に入れる。更に怪物的なカリスマ性で何十万人もの命を奪う戦争を次々に仕掛けヨーロッパ大陸の大半を勢力下に収めていく。冷酷非道な戦いだけで無く、年上の未亡人で連子もいるジョセフィーヌとの結婚や、彼女の奔放な振る舞いに振り回されれ憤るなど、壮大な戦いと思い通りには行かない愛憎劇が絡み合い生涯戦い抜いた男の姿が見えてくる。
ナポレオンは命令するだけでは無く自らも先頭を切って挑んでいたが、その戦いは61回。1793年から1815年までの間に100万人以上が戦死している。一挙に大勢を殺せる爆弾も無かった時代なのに。
有名な歴史上の出来事がいくつも登場し歴史好きも、歴史が苦手な人も良くわかるストーリー展開。何といっても、撮影カメラ11台。エキストラは8000人超え、多額な製作費をかけてのヨーロッパロケを敢行した今世紀最大級のスペクタクル超大作伝記映画。
ジャック=ルイ・ダビッドの絵から抜け出たようなゴージャスな戴冠式。ナポレオンが自ら自分の頭とジョセフィーヌに王冠を載せる宮殿のシーンは実に見事。
監督は、「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」「テルマ&ルイーズ」「ケネディ家の身代金」「ハウス・オブ・グッチ」などのリドリー・スコット。ホアキン・フェニックスとは、アカデミー賞作品賞受賞の「グラディエーター」以来23年ぶりのダッグ。
ナポレオンを演じたホアキン・フェニックスもまるで肖像画から抜け出てきたよう。鋭い目つきに時に悲しそうな表情と、戦場ではギラギラというより、怖いくらい冷静な目で、これを「悪魔と恐れられた男」の顔かと納得。アカデミー主演男優賞を取った「ジョーカー」とは違う狂気さで圧倒させる。
ナポレオンを翻弄するジョセフィーヌを演じたのは、テレビシリーズ「ザ ・クラウン」でマーガレット王女役を演じ、2018年に英国アカデミー賞で助演女優賞を受賞、映画「ミッション:インポシブル/デッドレコニングPART ONE」でホワイト・ウィドウを演じたヴァネッサ・カービー。妖しい魅力を発揮し、ナポレオンに「私なしでは、ちっぽけな男でしかない」など強気で言い放つところがいい。
他に映画「ワーテルロー」(70)でクリストファー・プラマーが演じていたナポレオンを打ち破ったウェリントン公爵をルパート・エベレットが風格を出して演じているのも見どころ。
ちなみに映画「ワーテルロー」でナポレオンを演じていたのは、ロッド・スタイガー。「ナポレオンの恋人」(06)では、ダニエル・オートゥイユ、「帽子を脱いだナポレオン」(01)では、イアン・ホルム。決してハンサムではないれど実に個性的といったところが共通している。
ベートベン交響曲第3番「英雄」とか、「一日3時間しか寝なかった英雄」としても知られていたナポレオン。ホアキン=ナポレオンの強烈なインパクトも後々まで語られるだろう。
2023年製作 158分 PG12
原題 Napoleon
配給 ソニー・ピクチャーズ
12月1日(金)全国の映画館で公開